第51章 もっと言葉を教えて
家に帰り、おばあちゃんに要件を伝えようとしたが姿がなかった。買い物だろうか。
私は置き手紙だけを残し、さっさと外に出た。
同じタイミングで実弥が出てきた。
「行くぞ」
「……うん」
私たちは、歩き出した。どこに向かうでもなく、ただ歩いていた。
「どう思ってるかって言ったな。」
「…言った。」
「俺は、今でも怖い。」
実弥が言う。
すっかり暗くなった空はその顔を鮮明に見させてはくれない。
「お前が死ぬのがな。」
「その“お前”は…。」
「今俺の隣にいるお前だ。」
実弥が私を見ずに前だけを見て言う。
「が、霧雨さんのように死んでいくのが怖い」
そう言われ、私は何も言えなかった。
…私が、前世の私のように、死ぬのが怖い?
「………どうしてもよォ…頭から離れねんだ。トラウマっつーの?霧雨さんが、無念だっつって、刀もつ手の力がなくなって、座ったまま血をだらだら流して青くなって死んでんのがよ…。」
実弥は続けた。
「お前がいつか、そうなっちまうんじゃねえかって…」
珍しく声が小さかった。絞り出したようなか細い声だった。
「そんなことはねえ、気にしすぎだ、死にゃあしねえって、わかってるつもりなんだ。けど、頭から離れねえ。」
実弥が足を止めた。ちょうど赤信号だった。
「お前に何か起きたら、どうしようって、そんなこと考えちまう。」
私はもう、ただ、涙が出てきてしまってどうしようもなかった。
こんなにも近くにいたのに。たくさん悩んでいたのに、私は全く知らなくて。
「実弥、私。ごめんなさい、知らなくて。」
「あ…!?お、おい!!泣くなよ!!!」
その泣き顔を見た実弥はギョッとして、周りの目を気にしつつ私の手を引っ張って何処かへ連れて行った。