第51章 もっと言葉を教えて
実弥曰く、こうだった。
期末テストの最終日。冨岡くんが私をクラスに呼びにきた日のこと。あの時にクラスで噂が広がったらしい。クラスメイトからしたら二人でどこかに行ったことが響いたらしい。
そして、実弥のいうデートというのは、その日の夜のこと。肉まんを奢らせた日のことだ。
私は必死に説明をした。誤解を解くために長々と喋った。
「…じゃあ…付き合ってねえのか。」
「だあかあらあ!!そう言ってるでしょ!?説明二周目いっちゃう??」
「いや、もういい。わかった。」
そして、少し間を置いた後に実弥はにこりと笑った。
「そうか」
どくん。
心臓の跳ねる音がした。
冨岡くんの世界遺産のような笑顔を見ても全くときめかなかったのに。
けど、そんな些細ないつものやり取りが私に勇気をくれた。
「……実弥、その」
「あ?」
「………前世のこと、気になる?」
あれだけ悩んでいたことが嘘みたいで、ずいぶんとあっさりと言えた。
「否定はしねぇ。」
実弥もさらっと答えた。
「お前に前世を気にするなといいながら、俺が女々しく引きずってんだ」
「…そう。」
二人で横にならんで歩く。
実弥の方が背が高いし、私はひょろひょろしているし、体格にもずいぶんと差が出た。
「それなら、私にもうかまわなくていい。」
「………は?」
「私、実弥に迷惑をかけてることも気づかなくて…ずっと甘えてばかりだった。でも、今と前世は全くの別物だから、君が私に優しくしてくれるのは違うと思うんだ。」
「お前ッ」
実弥が私に怒鳴る。
けれど、続けた。
「実弥からは…何かを怖がっているような、そんな気配がした。」
私はどんどん声が細くなっていった。
「……………でも、私は気配しかわからないから…本心はわからないの。だから。」
私はぎゅっと拳を握りしめた。