第51章 もっと言葉を教えて
冨岡義勇という男のにっこり笑顔を見たことがありだろうか。
私は初めて見た。
「……冨岡くん」
「何だ」
もういつもの顔に戻ってしまった。
「…そういうの大好きです……ありがとう…!!!」
「?何だ?このチョコレートか?」
「はああ、ありがとう全世界」
まじ尊い。何だ。あの笑顔。全宇宙の宝だ。世界遺産に登録しなきゃ。ユネスコの職員はどこだ。今すぐ申請しに行かなきゃ。
「霧雨はチョコレートが好きなんだな。」
「私はこの世に生まれてよかった。」
話の噛み合わない私たち。
「霧雨、もう帰ったほうがいいんじゃないのか。またこの前のようなことになるぞ。」
「あ、そっかあ。うん、そうする。今日は色々とありがとう、マジで!!」
私は幸せを感じながら彼と別れた。
そんな浮き足立った帰り道に、私は見慣れた後ろ姿を見かけた。
「実弥ーーーーーーー!!」
「うおっ」
「聞いて聞いて!!今日私は世界遺産を見たんだよ!!生まれてきてよかったよー!!!」
姿を見るに、きっとお使いだ。スーパーの袋をぶら下げていた。実弥は玄弥くんの世話で忙しいおばさんの手伝いをよくしているから。
「世界遺産だァ?」
「そうなの!!今日めっちゃいい日!!」
「……おい、そんなに近づくな。離れろ。」
「何だと!?私の話を聞きたまえ!!」
「何キャラだァ…おい、くっつくな、誤解されんぞ。」
「はい?」
私がキョトンとすると、実弥はため息まじりに言った。
「お前、冨岡と付き合ってんだろ?」
…。
………。
あ、意識飛びかけた。やば。
「断じて違うけれども」
「あ?お前のクラスで噂になってたし、この前もデートしてたじゃねえか。」
「は???そしてはあ?????」
私は困惑してしまった。とりあえずこの誤解を何とかしなければと将棋で腐るほど使った頭を回転させた。