第51章 もっと言葉を教えて
「疲れた…」
「もう何も頭が働かん…」
対局を終えた私たちは二人でこの前のように、コンビニの外の車止めに腰を下ろしていた。
集中する時間が長かったからか、異様に糖分がほしくなり二人でコンビニにふらふらになりながら駆け込んだ。
百二十円のチョコレートを買うのに私は千二百円をだし、隣のレジでは冨岡くんが十二円を出して店員を困らせた。誠に申し訳ない。
「…次から一日二局までにしない……?」
「……あぁ…」
私たちはチョコレートにかじりついた。糖分は大切だ。
「霧雨は優しいな。」
「は?」
「俺に付き合ってくれるやつはなかなかいない。」
…そういえば、冨岡くんってずっと一人で詰将棋してるっけ。部の先輩と話しているところを見たことがないし。将棋部はドライだから、私も先輩と特別仲がいいわけではないが、全く話さないわけではない。
同じクラスだった時も、誰かと和気藹々としたようなことはなかった。いや、冨岡くんが和気藹々としていたら私は目を疑うけれど。
「…冨岡くんの顔は綺麗だからね!」
私は何だか照れ臭くてそう答えた。冨岡くんはムフフ、と笑った。
「そうか。綺麗な顔か。」
「そうそう。眼福眼福。」
「……ずっと、気になっていたんだ。」
冨岡くんが少し微笑んで空を見上げた。
「俺は、お前を刺した。そのせいでお前が死んだのだと思っていた。だから、俺を恨んでいるのではないかと…。」
「冨岡くん、恨んでなんかいないよ。むしろありがとう。」
私は冨岡くんに笑いかけた。冨岡くんが空から目を落とす。
「…お館様も苦渋の決断だったの、私はわかっている。冨岡くんも。」
「…霧雨。」
「人を殺すことの辛さは…わかっているつもりだよ。だから、恨んでないよ。何もかも覚悟していたことなんだから。」
私がそういうと、冨岡くんは笑った。
んん?
笑った?
笑っ、た…わら……わ…
ええええええええええええええ!!!!!