第51章 もっと言葉を教えて
私は結局勇気が出ずに、なかなかその話ができずにいた。
あぁ、もう年末。今年も終わっちゃうのに~!!!
「いっそのこと殴ってほしい」
「あぁ、歯を食いしばれ」
隣を歩いている冨岡くんが拳を握りしめた。
私は丁重にお断りした。君のパンチなんてくらったら多分死ぬ。
なぜ冨岡くんが隣にいるかと言うと、どうしても将棋で私に勝ちたいらしい彼が今年中にけりをつけようとしているらしく、対局を申し込んできたのだ。
彼が家から折り畳み式の盤と駒を持ってきて、河川敷でやろうということになった。
なぜ河川敷かと言うと、お金がかからないからだ。お互いお金はあまり持っていないので、青空対局になった。
「絶対に駒をなくすなよ。」
「……おう。」
将棋部はこの休み期間中に活動はない。活動再開まで待っていてくれればいいのに。
「いくぞ」
冨岡くんが目を細める。
どれだけ勝ちたいんだよ…。
「王手」
私がそう言うと、冨岡くんは頭を抱えた。そして、本当にその言葉を言うことが苦痛であるようで、ぐっと唇を噛んでから言った。
「参った……ッ!!!!!」
どんだけ負けず嫌い??????
そんなに?そんなにか??
まぁ、所々危なかった。普段は気配で感情の変化がわかったけど、彼は基本的に表情が変わらないから…いつものようにはいかなかったけど。
「……も、もう一回やる?」
「……やる。勝つまで。」
まさかの申し出に、私はため息をついた。河川敷で青い空がオレンジになるまで、何回も私は付き合わされたが、全線全勝であった。