第50章 本心
桜くんは家に行こうと言っていたが、まさか行くはずもなく近くの公園のベンチに二人で座った。
「で、いつからなの」
「へ?」
「その症状だよ。」
桜くんがぶっきらぼうに言った。
「私が気配を感じられていないって、わかっていたの?」
桜くんがうなづく。
「後ろに立たれて気づかないなんて、霧雨さんに限ってありえないデショ」
「…集中してたりしたら気づかないこともあるんだけど。」
「僕、霧雨さんを見かけたの声をかけた場所から十メートル前で、なかなか追いつけないからずっと後をつけてるみたいな状態だったんだけどー。」
もうそれで答えになっていた。
普段の私なら気付いていただろう。
「まあ、嘘だけど。」
「ええ!?」
「それも嘘なんだけど。」
「ええ!?ど、どっちが正解!?」
「それもわかんないなら、やっぱし僕の予想は当たってるね。はい、説明はオシマイ。で、いつからなの。」
桜くんは相変わらず頭の回転がはやいようだった。
「うう、今日の朝から…」
「突然?何の前触れもなく?」
「うん。理由がわからないの。何だか、五感の一つを失ったみたいで、上手く振る舞えなくてね。いろんなところにぶつかったり、転んだり、物を落としたり。」
「それは大変だね。最近何かあった?」
桜くんに聞かれ、私は一生懸命考えたが心当たりがなかった。
「うん、霧雨さんは何もないって思ってるんだね。でも、五感…いや、僕でさえもほんの少しは持っている第六感が喪失するほどのことだから、何かはあったと思うのだけれど?」
「ダイ、ロッカン?」
「霧雨さんのその不思議な特技は第六感の異常な発達によるものだよ。知らなかった?」
生まれて初めて知った。桜くんが何かなかったのかと詳しく聞いてきたので、私はまさかと思いながらあの話をした。
実弥との話だ。