第49章 愚者
「俺は、霧雨こそ綺麗な顔をしていると思うが。」
そう言われたが反論した。
「そんなことない!それに、自分の顔はタイプじゃない!!君はもっと自分の顔面にありがたみを感じなきゃ!!」
「俺はありがたい顔をしているのか…!」
「毎日神様に感謝してもお釣りくるよ!?」
そうか、と冨岡くんが頷く。
「他には霧雨はどんな顔が好きなんだ」
「ほほう、聞きたいのかね?いいよ、教えてしんぜよう…!」
肉まんと大根がなくなっても、私たちは話し込んでいた。
真冬の空が色を変えていくことにも気づかずに…。
「なるほど。胡蝶の顔はいつでも見れて眼福もので、伊黒の顔はいつでも見れないが果てしなく尊いと。」
「そうそう!」
冨岡くんはどんな話も聞いてくれる。それに、誰かにペラペラと話したりしないので安心できる。
「それでね「ッ!!!!!」」
名前を呼ばれてそちらに目をやった。
怒りや安堵の混ざった気配がした。
「不死川くん」
「おうッ!!」
私がポカンとして名前を呼ぶと元気よく返事をした。
乗っていた自転車から降りて、ズンズンと近づいてくる。
「不死川か。何をしているんだ。どうしてここにいる。」
私の気持ちを冨岡くんが代弁した。
すると、彼の存在に気付いていなかったのか実弥は驚いていた。
車止めに座り込む私たちを見下ろして、実弥はしばし動きを止めたが、数秒後に動き出した。
「そういうことかよ」
?何がだ?
「お前、学校終わったら速攻帰ってくるってじいさんばあさんに言ってたそうじゃねえか。心配してたぜ。」
「…ッああ!!」
私はそこで気付いて立ち上がった。
そうだ。今日は部活に参加するつもりもなかったんだ。冨岡くんが対戦を申し込んできたからいつもみたくOKして、今日に限って遠いところに寄り道を…!!
「やばいやばい!!空真っ暗じゃん!!どうしよう怒られちゃう、怒られちゃうよー!!」
「……落ち着け、霧雨。」
「うん、落ち着く!そんで帰る!!今日はありがとね、冨岡くん!!ああ、長々とごめんね!!」
「俺のことはいいから、はやく帰れ。」
私は冨岡くんに礼を言い、はやく帰ろうと実弥を急かした。