第49章 愚者
実弥が自転車をおし、私はその横で歩いていた。先ほど実弥がスマホを貸してくれたので、家への連絡は何とかなった。
二人ともとても心配していて、とても申し訳なかった。
「お前が帰ってきてないって聞いて探しまくったわ、全く。」
「…放っておいてくれてもよかったのに。」
うう。また迷惑をかけてしまった。人間は迷惑をかけずには生きていられないと言うが、私の場合は全くそれらしい。
「あ?」
実弥の声が低くなった。怒っている。
けれど、何で怒っているのかがわからない。
「…お前は楽しかったのかもしれねえけど、俺はそうじゃねえんだよ。」
わからない。
私は、気配しかわからない。
前世で人間として死んだ時もそうだった。あの時も、わからなかったんだ。何の気配も感じない瞬間があって、その時に…。
「それでも、実弥は私を放っておきべきだったと思うよ。」
わからないけど、これだけは確かだ。
いよいよ言葉がなくなって、実弥はそれに何も返さなかった。家に帰っても私たちは無言で、ただ別れただけ。
私はおじいちゃんたちに怒られることはなかった。
それが一番申し訳なくて、ただひたすらに謝った。