第47章 真冬
しばらくしたら実弥が帰ってきた。
冨岡くんには伝えられたと言う。
「どうもありがとう…」
「おう」
おかしい。ていうか、怪しい。何で今日はこんなに優しいんだ。いや、実弥が優しいのはいつもだけど。何か変だぞ。
「おら、帰んぞ。」
「え、それ私の荷物。」
「持ってやる。」
「はあ??今日部活は…ないですね。はい。」
吹奏楽部は休みだ。
「ていうか、慌てて教室に入ってきてたよね?なんか用事あったんじゃないの?」
「……お前を探してたんだよ。ホームルーム終わるのを待ってる間に自習室で宿題やってたら、時間を忘れててよ。」
「…何か変なもの食べた?今日どうしたの。」
「うっせェ…。」
そんなに心配しなくても良いのに。
だって、血が流れはしたけど死ぬ訳じゃないのに。
二人でいるところを誰かに見られたくない。私は怪我が痛くて、速く歩けないことを言い訳に彼の少し後ろを歩いた。私たちの距離が開くことはなかった。学園を出ても、それは変わらなかった。
私の歩幅に合わせて歩いてくれてるんだな、私の気持ちをわかってるんだな、と思うと頭が上がらない。氷雨くんの言う通り、素敵な幼なじみだ。
(あ)
家まで後半分というところで気づいた。いつだったか。話し合った河川敷でだった。
両足、左手。今日怪我をしたところは、私が死んだ時に欠損した箇所だ。
(まさか)
私は立ち止まった。実弥が数歩歩いてそれに気づき、立ち止まった。
「どうしたァ。歩けなくなっちまったか?」
私は口元を抑えた。
ああ、何て。
何て優しいのだろう。
私は気配で何もかもわかるから、自分の予想が当たっていることはわかる。
何て優しくて。それでいて、何て。何て…。
(何て、可哀想な人なんだろう)