第46章 好意
「お前の頭の中のお花畑にはビンボー草でもおい茂ってんのか。」
コツン、とこぶしで叩かれた。何も痛くない。
「アホ」
コツン、ともう一発。
「お前はすげえ奴だよ。今日、改めて思った。」
「…。」
「ずっとお前が羨ましかった。」
実弥は視線を落としていった。
私は何も言えなかった。
「強えし、頭いいし、顔もいいし、お館様にも頼りにされてるし、散々な扱いをした奴らにも優しくして人柄もいいし、よくわかんねえ特技もある…本当に羨ましかった。」
…そんなこと、初めて言われました。
「だからよぉ。お前が無念だって死んでいったことが本気でショックだったんだよ。こんなすげえ人もこんなこと言うのか、泣いて死ぬのかってな。じゃあ、俺はどうなんだってな。」
実弥は顔をあげない。
「わかんなかったよ。」
私はいてもたってもいられなくて、実弥の手に自分の手を重ねた。珍しく冷たい体温だった。
「…前にも言ったじゃない。そんなこと思わなくていいんだよ。」
「そういう問題じゃねえ。」
実弥はぎゅっと手を握ってきた。
「俺は、お前をずっと尊敬してる。だから今回のことも受け入れてる。俺はきっと、鬼殺隊のためとはいえ鬼になる覚悟なんざ持ってなかった。」
「……。」
「だから、俺はお前を責めるつもりはねえんだ。勘違いさせたら悪かった。」
実弥がふっと微笑む。
私はしばらく黙っていた。
けれど言葉より先に涙が出た。一粒だけ。それで止まった。
「……頭の中がお花畑なの、実弥じゃないの。」
あの日、私は薬を飲むことをためらいはしなかった。死ぬことなんて怖くなかった。鬼になって鬼殺隊のためになるのなら、喜んでそうしたいと思った。
けれど、だんだん人間ではなくなる自分の体に恐怖した。
本当にこの先どうなるのかと不安に思った。
冨岡くんに刺され、上弦を前にして絶望した。何てついてない日だろうかと。そして、上弦を相手に全く歯が立たない自分にも。
自分はこの長年何をしていたのだろう。上弦一体斬れない。
……私、本当に弱かった。それなのに実弥は、そんな風に思ってくれていて。