第44章 前世の記憶ー秘密を霞にまいてー
「もう、霧雨ちゃんには脱帽ね。」
「お前帽子被ってないだろう。」
「お黙り。」
安城殿がふふ、と微笑む。
「泣くことはないわよ、おチビちゃん。この美しい天晴が共犯になってあげるんだから。」
その言葉に泣いていた桜くんが顔を上げました。
「あなたが一人でこの薬を飲んだって、絶対鬼になれるわけじゃないのよね。だから私達にお願いしたんでしょう。」
「…そうだよ。それに、鬼になれるかもしれない人も薬の効果があらわれるまで生き残らないといけないんだ。」
「…どれくらいの時間なんだい、ハカナ。」
氷雨くんが聞く。
「…今までの硏究からみつもって……十年。」
しんと、黙り込む。
鬼殺隊の十年は長い。
今最も隊歴が長い現役の隊士は氷雨くんと安城殿ですが、彼らは今年で十五年目です。
もう心に決めた安城殿は何ともないようだったが、氷雨くんは顔を曇らせた。
「…鬼殺隊の十年は長いよ。」
「わかっている。」
「この中の四人が、皆…死ぬかもしれない。」
それでも桜くんは考えを変えないようで、涙をごしごしとぬぐいました。
「僕は、妹が、今も生きて、僕の隣で笑って、いつか結婚して、そんな姿が見れたら、それで良かった。そんな未来が、僕にはもうない。そんなのはもうたくさんだ。どうしてもこんなことは終わらせてやりたい。」
震える涙声。けれど、その目は揺るがない。
「……そのために僕はたっくさん、いーっっぱい頑張ったんだぜ。」
でも、最後には彼らしくにやりと笑ってみせた。
「私は飲みます。鬼に泣く人々のために。」
「私もよ。夜の平和のためにね。」
「私も飲むよ。」
氷雨くんが最後に決断しました。
「大切な仲間…君達のためにね。」
「ありがとう、皆。ありがとう。でも、ごめんなさい。ごめんなさい。」
桜くんはボロボロになって泣きました。
鬼になることに対する恐怖や不安はありませんでした。
皆、一緒だからでしょうか。