第44章 前世の記憶ー秘密を霞にまいてー
飲んだ薬は何とも言えないまずい味がして、皆で咳き込んでから、吹き出して笑いました。
「このことは、本部にも秘密にしませんか。知っている人間が多いと鬼側に見つかってしまいます。これは何よりもダメなことだと思うのですよ。」
私のその提案に、皆で頷きました。
「十年後、私達はどうなっているかわからない。けれど、誰が死しても生き残っても、今日この日のことを胸に、その後の責務を全うすること。」
氷雨くんがそう言いました。
私達はその言葉を受け止め、ぎゅっと手を重ね合いました。
「どうなっても、私達は鬼殺隊だ。それを忘れないこと。」
私達は誓いあった。
この秘密は、どこまでも貫き通すと。
「霧雨さん」
それから数年後。
氷雨くんも、安城殿ももう鬼殺隊にはいません。私達が最後でした。
でも。
桜くんが。
腹に大きな穴が開いていました。上弦の鬼にやられたようでした。
「あとはあなたと氷雨さんだけだ。僕はあなた達に託す。」
桜くんの顔は穏やかでした。
「僕ねぇ、本当は、鬼になるのも、死ぬのも怖かったんだぁ。」
その一瞬。
桜くんは、強がりもせず、年相応の無邪気な幼子のようになりました。
「でも、みんながいてくれたから、こわくなかったよ」
桜くんは微笑んだ。
「僕ねぇ、妹とたくさん遊ぶんだ。霧雨さんが教えてくれた紙飛行機、見せてあげなくっちゃ。」
私は口を開いた。
「私も、たくさん髪飛行機を飛ばしますから、きっと見てくれますね。」
ポトリ、と桜くんの手が落ちました。
「きっと、ですよ。」
私は、彼の小さな手の小指を握りました。
「おやすみなさい、桜くん」
誰よりも鬼を知りつくし、研究した、頑張り屋の、桜くん。