第44章 前世の記憶ー秘密を霞にまいてー

「死体が動かない期間というのは、薬が効果を出すまでの時間が長いからでしょう。」


その顔を見てまだ信じてもらえないものかと思い、私は話し続けました。


「その期間、生きている人間にもきっと薬の効果は現れない…。時がたち、その頃に鬼になるのか死ぬのかが決まる、ということでしょう。生きている人間と死体では勝手が違いますよね。生きている人間は血が巡っていますから、薬の効果は死体よりはやいかもしれませんね。上弦の鬼の血が本物なら、そこそこの時間を有すると思いますが。

合ってます？」

「…ハイ…あってマスヨ。もう、僕の言おうとしたこと言われちゃったよ。」


桜くんが口を尖らせる。


「ちょっと待ってちょうだい。霧雨ちゃん、肝心なことを聞いてないのよ。」

「そうだ、何でハカナは鬼になろうだそんなことを考えたんだい。今までみたく鬼を人間に戻す薬を作ればいいのに。」

「あら、それは聞かなくてもわかりますわ。」

「はあ？どういうことなのよ。」


私は桜くんの話から推測できることを話した。


「鬼と人間に、橋渡しが必要です。そういうことではございませんか？」

「…だから、何でわかるのさ。」

「無惨の話をしましたよね。その時、私達は鬼に関しての情報をあまり所有していないことが浮き彫りとなりました。自我を持った鬼殺隊の鬼がいれば、好きなだけ鬼に関して調査が可能ですし、鬼側との接触も可能です。いくらでも鬼殺隊に貢献できます。」

「……完璧デス」


桜くんはため息をついた。


「ふん、力が欲しいから…とかは予想しないの？僕弱っちいもん。普通は思うでしょ？」

「桜くんはそんなことのために人間の死体をもてあそぶようなことはしません。ねえ？」


私は他の二人に問いかけた。しかし、何だかぽかんとして答えてはくれませんでした。


「……あー。やめて。何でそんなこと言うの。」

「あら。どうしました、お目々を抑えて。」

「泣きそうだよ、僕。」

「あら。あらあら、泣かないで。」


大きくつぶらなその目から涙がこぼれた。死体を実験に使うのも、もうどうしようない鬼の血を飲んだ隊士を前にするのも、優しい彼には辛いことだったのでしょう。