第44章 前世の記憶ー秘密を霞にまいてー
しんとした雰囲気の中、私は手を上げた。
「え…な、何、霧雨サン…言いたいことあんの?……あるならドーゾ。」
桜くんって私のことを怖がっているんでしょうか?でも、初めて会った時、私の罪に対しては肯定的な態度をとって『僕だったら、死体を観察して色々実験しちゃうね。』なんて物騒なことを言っていたのですが。
多分、安城殿みたいに真っ向から突っ込んでくる人が好きなんでしょうねえ。私、桜くん得意の威張りも嫌味もなんとお答えしたらいいのかわからないので対応しないものですから。
「その無害な鬼は、太陽の下を歩いても平気なのですか?」
「…死体として放置されている間は平気だった。でも、動きだしてからはダメだった。」
「そうですか。ありがとうございます。」
「え、あ、それだけ…?」
「はい。」
桜くんは戸惑っていた。が、話を続けた。
「と、ともかく。僕は無害な鬼を作り出す薬を数年かけて作りだした。けれど、死体での実験しかない。それでも、僕はある決意をした。そこで皆にもちかけたい。」
桜くんのまとう空気がピリッと緊張した。
「この薬を、僕と一緒にあなた達に飲んでほしい。」
「良いですよ。」
「ええっ!?」
「はあ!?」
「即答!?」
…?安城殿と氷雨くんはともかく、なぜ桜くんまで驚くのでしょうか。
「え、もうちょっと考えたりしない?意味わかってる?話し聞いてた?」
「聞いていました。」
「お、鬼になるんだよ。それになれないかもしれないんだよ。」
私はにこりと笑った。
「ええ。死体が人間として蘇り、すぐにまた死体に戻る…つまり、死んでしまっているのですから、鬼になれなければ時がくるとともに生きている人間も死んでしまうのでしょう?」
「…!?な、なんで…これから言おうと思っていたのに。」
「ほら、ね。私は話を聞いていたでしょう?」
そう言う私に、三人ともとてつもなくおいしくないものを食べたような、そんな顔をするのでした。