第44章 前世の記憶ー秘密を霞にまいてー
「会ったの!?上弦に!?」
「いったいどうやって…!!」
「闘ったのですか?」
みんなが驚く。
…やっと話した私に。
ギョッとした目で私を見ていました。まあ、大きなお目々。
「……た、闘ってはないよ…上弦の壱が現れたと聞いて、先日その場に向かったんだ。でも、一歩遅くてね。ガタガタに震えた隊士が一人道にいたから、どうしたのかと聞いたんだ。
鬼の血を飲んでしまったと言ってね。彼の足元に体量の血があったから、実験に使おうと回収したんだよ。」
「…目の前の隊士は無視なのね」
「そしてら、上弦の壱の血を飲んでしまった、殺してくれだなんていうから、死にたいなら実験台になってくれって言ったんだよ。生きている人間に下弦の血の薬を注射した。」
「あんた、情がないわけ!?」
「うるさいな。死体が人間として蘇ったなら、鬼になりかけの生きている人間も蘇るかもしれないじゃんか。」
そうだ。この実験の趣旨は鬼を人間に戻すためのものです。
桜くんはそのために頑張っていたのですから。
「それで、ちゃんと人間に戻ったんだ。」
「え??何よ、すごいじゃない…」
「三日だけ」
安城殿が口を閉ざした。
「思えば、人間として蘇った死体はほんの少しでまた死体に戻ったんだ。…この薬は、ほんの少しの希望しか与えられないことがわかった。」
桜くんがうつむく。
「でも。鬼を作る薬としては有能だ。その効果は絶対なんだよ。もし鬼になれれば死なない、しかも血鬼術まで使えるようになる。自我を保ったまま。おまけに人間くささは消えて、気配までもが人間のままだ。
試しにここ何日か、この薬で鬼になった死体を霧雨さんの前で歩かせた。霧雨さんは気づかなかったよ。」
何と。
いつでしょう。鬼がいたらきりかかっていましたのに。
「この薬は無害な鬼を作り出せるんだ。」
桜くんがはっきりとそう言った。