第44章 前世の記憶ー秘密を霞にまいてー
「その死体は二種類に分かれた。」
桜くんが告げた。
「動いた死体は鬼になっていたものと、人間のまま蘇ったものに分かれた。」
「人間が蘇ったあ!?」
「すぐ死体に戻ったよ。いまいち原理がわからなかったが、僕は実験を次の段階に上げることにした。藤襲の鬼は弱すぎるからね。普段会う鬼の血を使った。」
「で、どうなったって!?」
安城殿が身を乗り出した。…単に好奇心が働いただけみたいですが。
「動かない時間が長くなった。半年だ。半年後にやっと動いた。」
「ん?あ、そういえば、鬼になった死体はどうなったのよ。聞いてなかったわ。」
「今更?斬ったよ。ただ、おかしかったのは…自我が残ったままだったってこと。鬼って時がたてば人間の記憶が消えていくでしょ。けど、ずっと自我を保っていたし、人間以外のものも口にしたんだ。さて、半年後に動き出した死体のことだけどね。」
桜くんは続けます。
「人間として蘇った死体は、1ヶ月後に動き出した死体に比べてはるか長い時間動いていた。一週間くらい。それでまた死んだ。」
「あんた、本当にとんでもないことしてるわね…。」
「一方で、鬼になった方は自我を保ったままだった。試しに四肢をばらばらに解体したんだけど、1ヶ月後に生えてきた。まあ完全に鬼になっていたことに変わりはないけど、普通の鬼よりは駄作だね。」
…さらっととんでもないことを言いましたね。
「鬼の段階をどんどん上げていった。下弦の血ともなれば動き出すまでに数年かかったし、蘇った人間は一年は動き続けた。鬼は血鬼術まで使いだしたんだ。」
「…鬼の程度によって、鬼の出来栄えも変わるということか。」
「ご名答。」
桜くんは、あの瓶をギュッと握りしめた。
「これは、その薬さ。……恐らく、最高に強力なものになっているはずさ。」
「…どれほどの鬼の血を使ったんだい?」
「……………上弦の壱さ。」
桜くんの言葉が、静かに室内に響きました。