第40章 泥舟
氷雨くんは口を閉ざしている。
言わなくては。
何か。
何か、言わなくては。
「氷雨さんは、と同じ日に亡くなったんですよね。病気と言っていましたが、少し不自然です。俺たち柱も馬鹿ではないんです。誰が死体を盗んだのか、どうしたら取り返せるのかを調べ合ったんですよ。」
頭の中が白んでいく。
そんなこと知らない。誰も教えてくれなかった。
「一度、を問い詰めたこともあります。ですが…答えてはくれなかった。盗まれたという真実に、驚いてはいました。ですが、コイツが本気で驚いた時のリアクションじゃなかった。本気で驚いたなら、門の時みたいなあり得ねえ叫び声をあげるんだ。」
私は一番肝心な部分を隠していた。
冨岡くんのことも、自分の死を悟っていたことも。
人間をやめたことも。
「柱は入れ替わると言いましたね。あなた達の入れ替わりにはおかしな記録が残っていました。霧雨が柱に加入したことによりあなた達の代はしばらく人が変わらなかった。」
「ええ…。」
「ちょうど、鳴柱を筆頭にどんどんと死者が出ていた。そして、十一年後。コイツの死を最後に入れ替わりは完了したことになります。」
実弥は続ける。
「これは…調査中に発覚したのですが、鬼殺隊の記録がたった一日だけ残されていない日がありました。」
「…」
「とあんたの死んだ日はその日から丁度十年後だった。」
私と氷雨くんは顔を見合わせた。
「それは…皆さん、ご存知というわけかい。」
「手懸かり探しに記録を漁ったが、そんなことでは死体を取り戻せねえ。すぐ考えるのはやめたが、当時の柱は怪しいその一日のことを知っています。」
「…そう。」
氷雨くんが目を伏せた。
「………。」
「………。」
「あの」
私は勇気を出して言葉を発した。