第40章 泥舟
氷雨くんは本当につかみどころがない。よくわからないや。
「まあまあ、ケーキでも食べてください。難しい話ばかりで頭が痛いでしょう。」
「遠慮無くいただきますけど。」
「太るぞ。」
「黙れ。」
「痩せているんですからもっと食べたらいいではありませんか。不死川くんみたいにたくましくなったらどうですか。」
「えー…。」
「殺すぞ。」
「やってみなさいよ。」
べー、と舌を出すと怒った。あーこわこわ。
「ああ、どうか喧嘩しないで。殴ってしまいますよ。おてては元気なので、私。」
「「すいませんでした。」」
そも優しい頬笑みに何か恐ろしいもの感じ、慌てて謝った。
「そういえば、二人は前世でも仲がよろしかったのですか?」
「こんな奴嫌いでしたよ。」
実弥が悪態をつく。私はケーキを食べていたフォークを置いた。それは紛れもない真実だ。
「あ…悪い。」
実弥が謝ってきた。
「謝らなくていいよ。ごめんね、私…。」
「いや、謝るなよ。…お前の死んだ後に事情を聞いて、皆お前のことがわかったんだからよ。」
それは、人間として死んでしまった私の知り得ないことだ。
「……そう。死後にわかったのか。」
「はい。」
「………それは、少し残酷な話だね。」
「…遺体と遺品が盗まれ、ろくな葬式もできませんでした。」
場の空気が変わった。
いや、正しくは氷雨くんのまとう空気が変わった。
遺体が盗まれたというならば、それは驚くだろう。けれど、今の彼からは、まるで。
焦りや恐れといったものに感じた。
「…やっぱりな。」
「え?」
「あんたら、何か隠していたんだろう。」
私は嫌な予感がして、それでもじっと話を聞いていた。