第40章 泥舟
実弥の言葉にしん、と静まり返る。
氷雨くんはじっと何かを考え込んでいた。
「どうやら、時代も変われば考え方も変わるらしい。」
その結果、面白そうにそうつぶやいた。
「……私は、死ねよ死ねよと言われていました。」
「そんな」
実弥が否定するように声をあげた。それを、私が止めた。私の手を実弥の手に重ねた。
実弥のゴツゴツした手は暖かかったけれど、私の手は冷たかった。
「そういう時代だったということでしょうか。私は死に損ねた。入れ替わりの責務も果たせなかった愚か者でした。」
「氷雨くん」
私はまだ話す彼の言葉を遮った。
「氷雨くん達と過ごした時間と、私が実弥達と過ごした時間は違います。」
「……。」
「氷雨くん達の考え方ややり方は……ごめんなさい、私、あまり理解できなかったんです。お館様が色々と禁止なさったから、私には継承できずにいましたし。」
少し懐かしい話だ。
私がまだまだ駆け出しの頃。
鬼殺隊は殺伐としていた。どこか嫌な気配があった。人を救うでも鬼を斬るでもなく、死ぬために任務に行っているような気さえした。
でも、それは全て。時代が変わろうとも共通した想いを秘めていたからにかわりない。
「私は私なりに、鬼殺隊の変わらぬ想いを引き継いだつもりです。」
「さん…。」
「あの頃の鬼殺隊は少し歪んでいるような気はしていました。けれど、それは間違いではない…。死に損ねたとか言う、他でもない氷雨くんが…先代の方々の作り上げたものだから。」
「…!」
「氷雨くん達と過ごした時間にも、実弥達と過ごした時間にも、良いものはたくさんあったと思います。だから、お互いに悲しんだり、怒ったりすることはないんですよ。」
氷雨くんがしばらく口を閉ざしたかわりに、実弥が話し出した。
「こんな風に能天気だから、コイツは鈍いんですよ。」
「は!?私、今頑張って話したのに、何でそんなこと言うの!?」
「頭ン中お花畑かよ、あー、ったく。」
実弥が頭を抱える。
私がわからずにいると、氷雨くんは困り顔で微笑んだ。
「きっと、いつかわかりますよ。」