第40章 泥舟
「五年か十年かわかりません。柱の誰かが一人死ねば、立て続けに他の柱も死んでいってしまう。」
なぜかね、とそう付け加えた。
「私の代では、さんが柱になってからしばらく同じ面子でしたね。けれど、私の引退を境に変わっていきました。」
「…確かに。」
「そう。けれど、さんは強かった。ゆえに生き残った。」
「人間は死にます。私もそうでした。」
「ええ、どんなに生き残ったって最後には死ぬのです。あなたも私と同じだ。」
氷雨くんは言った。
「あなたも私と同じで、“時間切れ”だったのですから。」
「……。」
私は眉を潜めた。
何が言いたいのだろうか。
「私の若いときは、柱が死に、新しい子が柱になることを“入れ替わり”と呼んでいたのですがね。この風習も禁止されてしまいましてね。入れ替わったと表現するのは死んだ人に不謹慎だとかなんだとか。それに、別に柱が死ななくても新しい子は入ってきますから。」
…たぶん、お館様から言われたんだろうな。氷雨くんはけっこう本部に反発していたから。
「入れ替わりも柱の責務です。自らの死とともに新たな柱へ引き継がなくてはならない。しかし生き残れば残るほど入れ替わりの責務は果たせない。」
「…死ぬことも仕事ってことですか」
「ええ、もちろん」
質問をしておきながら実弥の気配が変わった。
………怒ってる。
とてつもない怒りがひしひしと伝わってくる。
「さんはその責務を果たしたのだから、情けないだなんて思わなくていいと思うのですよ。いつまでも生きているよりはずっと良い。まぁ、年負うまで柱でいらっしゃる人もいますから、私はそれも素敵なことだと思いますよ。」
「……俺は…!」
「実弥?」
急に口を開いた彼に驚く。
長々と話していた氷雨くんが少し驚いていた。まぁ、こんな顔するなんて珍しい。
「……俺は、コイツにも…皆も、生きていてほしかったと、今でも思います。」