第40章 泥舟
そのあとは普通に、近況報告とかで盛り上がった。
前世でははるかに年上だった氷雨くんは、なんとひとつ年上なだけ。そりゃ前世より若く見えるはずだ。
そして、車椅子に乗っているのは精神的な理由で立てないから…だそうだ。
「前世の記憶というものは染み付いてしまって、歩いていると足を斬られた感覚を思い出して、恥ずかしながらすくんでしまって何もできなくなるのです。」
氷雨くんは悲しそうに笑った。
「……そうなんですか。」
私は自分の手と足を見つめた。
人間として死ぬとき、両足と片腕はなかった。足に関しては氷雨くんと同じなのに、私は…足がなくなっても、心がどこまでも穏やかで一切動じなかったのを確かに覚えている。
……鬼だし、再生するってわかっていたからかな。
いや、でも…あの時は……。
「?」
「っ」
名前を呼んだだけの実弥に過剰に反応してしまい、私はビクビクと居ずまいを正した。
「……申し訳ございません、また不躾なことを。」
「いえ、全然。……私は…死ぬときに足がなくなっても、怖くはなかったんです。……ただ。」
「ただ?」
私はあの時の思いを正直に口にした。
「私はたくさんの仲間を見送ってきました。皆が私を置いて去ってしまった。………この世に残していく仲間…。私の立場になる子達のことを…思うと…。」
ぎゅっと膝の上で拳を握りしめる。
「少し、情けなくて。」
私はぎこちなく笑ってみせた。
「…情けなくなんてねえよ。そんなん思ってる奴はいねえ。」
「……。」
実弥がフォローするように言ってくれた。
「…柱というのはね、不思議なことに、ガラリとメンバーが変わる年があるのですよ。」
氷雨くんは躊躇いがちに、そう話し出した。