第40章 泥舟
私達は手厚いほどのもてなしを受けていた。
「ケーキは好きなものをどうぞ。クッキーもあるんです。今日のためにパティシエに頼んで焼いてもらったんです。紅茶に砂糖は?ミルクも良い物があるのですよ。ぜひお飲みください。」
ずっとこの調子だった。本家と分家だったからか、私には丁寧な言葉使いなのだけど。実弥にはくだけた話し方なんだけどなあ。
「甘いものは好きかい?君は体が大きいからたくさん食べるといいね。あ、このケーキなんか、和風テイストでおいしいのだよ。中にね、あんこが入っていてね…。」
そこから長い話をうんたらかんたら。は、はやく食べさせてあげてえええ。実弥あんこ大好きなんですよおお!!
実弥は十分後くらいにやっとケーキにありついた。おいしそうだ。ほんわかした顔になってる。
「ああ、そういえば自己紹介がまだだった。」
その人は思い出したように言った。
確かに。おしゃべりばかりで肝心なことは何も始まっていない。
「様はご存知かと思いますが…。私、元鬼殺隊のヒサメハルカゼといいます。ヒサメというのはね、氷の雨と書いて、ハルカゼは春の風なんだけど、まあこの名前のよいところは「氷雨くん」」
私は話の骨をへし折った。
「紅茶が覚めてしまいます。手短に。あと、様なんてやめてください。今は令和ですよ。」
「失礼いたしました。いやはや、前世の癖というものはなかなか消えてくれないものでして、ついこの前私が「ひ、さ、め、く、ん」」
私が圧をかけていうと彼は黙った。
「実弥、この人、前世では私とちょっと身分に差があって丁寧にせっしてくれてるんだけど、気にしないでね。」
「身分?…お前、やっぱどこかのお嬢だったのか」
「え」
鬼殺隊で華族だったことを知っていたのはほんのわずかだったはずなんだけど…。
「妙に高飛車でお行儀のいいところがあったからなあ。」
「ええっ。」
「今はくだけてて話しやすいけどよォ、お前と話すと緊張するって何人か言ってたぜ。」
…まさか、そんな風に思われていたとは。氷雨くんは呆気にとられる私をクスクスと笑っていた。