第40章 泥舟
「鍵は開いていますから、門を開けてお入りください。」
そう言われ、門の重々しい格子の扉を開けた。
「はい、ようこそ。」
にこりと笑うその人に改めて向き合う。顔だけでなく、全身が見えた。門の中に入ったことであらわになったその姿は、最後に見た時と同じで車椅子だった。
まさか、あの時見たく足がないのかと、変に焦って手土産を落としてしまった。
「」
実弥が手土産を拾って、落ち着けと言わんばかりに背中を撫でてくれた。
「ああ、驚かせてしまいましたね。足はありますよ、この通り。」
「あ…」
「顔に傷もないでしょう。目も見えています。」
その人はズボンを少しまくって、足を見せてくれた。
私はほっとして、実弥から手土産を拾ってお礼を言えるほどになった。
「…辛い思い出を蘇らせてしまいましたかな。さあ、中に入りましょう。冷えるといけませんから。」
その人は車椅子を自分で動かし、中に入ろうとする。
「押しましょうか」
「おや、いいのかい」
実弥がさりげなくそう言って車椅子を補助する。
「素敵な幼なじみですね。」
「は、はい。」
恋心まで見透かされているようで恐ろしい。けれど、恋心というものをあまり理解できていないので、なんとも言えない。
好きなのは確実だけど、だからどうしたいかとかはないんだよなあ。
「はい、ここでけっこう。ありがとう。」
「いえ。」
連れてこられたのは、リビング。何人家族なんだと言わんばかりに大きなテーブルや、シワひとつない皮張りのソファ、見たことのないくらい綺麗なお皿やら何やらがずらっと並んだ棚など、色んなものがあった。
あととにかく広い。二十人住める。
「どうぞお座りください。」
「わあ」
私は思わず声を上げた。テーブルにはアフタヌーンセットというやつが並んでいた。たくさんのケーキがタワーに置かれていて、綺麗な模様のティーセットが置かれていて、憧れを絵に描いたようなものだった。
「すっごーい!!写真撮ってもいいですか!?」
「ええ。喜んでいただけたようで、何よりですよ。」
私はひたすら写真を撮って、数分たってからやっと椅子に座った。