第40章 泥舟
「いやぁ、仲が良いですね。不死川くんと良い関係のようですね。」
氷雨くんが笑いながら言う。
「名前…」
「あぁ、私ね、一応は生きていたんだよ。引退していただけだから。大きな怪我をしてしまってね。」
「それじゃあ、ずっと生きていたんですね。」
実弥の問いかけに、氷雨くんは首を横に振った。
「ずっとではない。…さんが死んだ日に私も死んだ。」
氷雨くんは、前世では私よりはるかに年上だったんですが、今は若いようだ。私達は大して年も変わらないんだろう。
それなのに、話し方も素振りも、全部年上みたい。今も、沈んだ表情はとっても大人だ。
「…何か、あったんですか?」
「……。」
氷雨くんはすこしためらった後に答えた。
「時間切れだったのだろうね。」
その言葉に私はハッとした。
氷雨くんは悲しそうに笑った。
「………何の話ですか?」
「私が死んだのは、寿命だったということだよ。すごく年をとっていたんだ。今はあなた達と歳が近いけれど、本当は二倍近く離れていたんだよ。」
「そうですか…。」
実弥はチラリと私を見てくる。それに関しては何も言えなかった。
「それより、さんは何やらお話しがあるとのことでしたが、何ですかな。」
氷雨くんは適当に話を反らした。私は慌てて身を乗り出す。
「あの、あなたが前世で寄越してきた箱と、今生で寄越してきた箱には何か意味があるのでしょうか。」
「……相変わらず、あなたは脈略も遠慮もなくとんでもない話を持ちかけてきますね。」
「…あ。」
氷雨くんが怒ったのがわかった。誰に対しても基本的には優しいのだが、そこは人間。怒るときは怒る。