第33章 前世の記憶ー神風鬼殺隊ー
私は優鈴を訪ねていました。
夜に訪ねても彼は起きていて、鬼殺隊としての癖はなくならないらしいのです。
「やぁ、。」
優鈴は虚ろな目を私に向けました。
「調子はどうですか?」
「良くなったよ。最近は歩けるんだぁ。」
ふにゃっと笑う。
優鈴は怪我の後遺症から視覚障害と平衡感覚障害を負っていた。
一メートル先ほどしか見えず、まっすぐ立つことも難しかった。けれど、回復には向かっているようだった。
隠が面倒を見てくれているらしい。彼は綺麗な布団に寝転んでニコニコとしていました。
「俺さあ、鬼から夜を取り戻したら、もう一回元の仕事がやりたかったんだよね。でもできなくなっちゃったからさあ。」
聞いてもいないのに優鈴はペラペラと話した。
隠伝いに聞いたが、最近は勝手に一人で話し出すらしいのです。どうやら、おかしくなってしまったのだとか。
精神に異常が見られたことも引退の理由の一つでした。
優鈴は視覚障害を負ったことで、今まで見えていたこの世のものではない“何か”の存在を全く持って確認できなくなったそうなんです。
それがずいぶんと彼にとっては心を病むにふさわしい理由だったそうでした。
「ああ、みんなに笑われちゃうなあ。僕ってばこれからどうしよう。」
「誰も笑いませんよ。育手となって、隊士を育てるのはどうです?継子が欲しいと言っていたでしょう。」
「いやあ、新しい風柱がいるんだったら、もういいよ。」
優鈴はまたふにゃっと笑うのです。何もかもをあきらめたかのような姿は、長年をともにしたあの勇姿とは遠く離れているのでした。
「今日は星が綺麗かい。」
「いえ。いつだったか、遠くの山の頂上で一緒に見た星には遠く及びません。」
「そうかあ。月は見える?」
「見えますよ。」
「まあるい?」
「残念。三日月です。」
「上弦?」
「はい。」
「そっかあ。」
やっと質問が当たった優鈴は嬉しそうでした。
「ねえ、。僕、次世代に何か繋げたかな。」
「ええ、風は受け継がれていると思いますよ。でも、あなたの風はあなたにしか起こせません。」
優鈴は言いました。
「ありがと」
それを最後に、声が聞こえませんでした。
眠ったようなので、起こさぬうちに去りました。