第28章 絆
実弥は気づいていない。
母親とお店の前で何かを話しこんでいる。繋いでいた玄弥くんの手がないこともわからないほどに。
「玄弥くんッ!!!」
私は叫んだ。けれど気づかず歩き続ける。
無邪気に歩く玄弥くんの目的地は恐らくおもちゃ屋さん。ただし、それは…。
車道を挟んだ向こう側の歩道…今私達のいる通りにある。
あんな小さな子が車道に飛び出して、車に引かれるなんて聞きあきた話だ。
けれど、聞きあきた話を直接見た人間がこの世に何人いる?
「玄弥ッ!!!」
実弥がやっと気づいた。
玄弥くんが名前を呼ばれて振り向く。ダメ。立ち止まっちゃ。
車が、来てる。
いち早く気づいた冨岡くんが一番玄弥くんに近いけれど、きっと間に合わない。
私も無理。こんなの届かない。
玄弥くんが車に気づく。車も玄弥くんに気づいて急ブレーキ。
キキーッという車のブレーキ音と、母親であるおばさんの叫び声と。その声は、全く同じタイミングで聞こえた。
「雷の呼吸」
私はハッとして横を見た。しかし、そこで並走していた天晴先輩はいない。
「壱ノ方」
ダンッ!!とばかに高い厚底のサンダルが地面を蹴る。
まるで、それは、一直線に突き抜ける雷のようで。
「霹靂一閃」
車が玄弥くんのいる場所を通過してから止まる。
見ていた何人かが悲鳴をあげた。
救急車、と口々に叫んでいる。
車道の向こう側に、私と冨岡くんは確かに見た。
玄弥くんを抱き抱える天晴先輩を。
横断歩道を渡り、慌てて先輩のもとへ向かう。
「間に合ってよかったわ。」
私達が到着すると、先輩はにこりと笑った。よかった。先輩に怪我はないみたい。
そうしているうちに、実弥とおばさんもこちらに走ってきた。