第28章 絆
次の日から安城殿が変わった。
耳からじゃらじゃらのピアスが消えた。顔にほどこされていたばっちりメイクもなくなり、あの長髪は清楚にまとめられていた。そして、とんでもなく短いスカートからのぞくあの美脚はもう見ることができなくなった。
「霧雨ちゃん」
安城殿が微笑みながら私に手を振る。校門前でたまたま出会ったのだ。
あまりの変わりように誰も安城殿だと気づいておらず朝の校門の風景はいつも通りだった。
「…だいぶ変わりましたね。」
「……変かな。」
女口調が消えた。制服が男子のものになっていた。
「俺は心まで女の子じゃないんだ。けど、こういう格好は何か気持ち悪いんだよな。」
「……私、どんな安城殿も素敵だと思います。」
素直にそう思う。男の子の格好をしたらただただイケメンで、やはり目を見張るものがある。モデルとかやればいいのに。
「………ははッ…そんなこと言うの、霧雨ちゃんだけだよ。」
「……。」
「…俺、お姉ちゃんが五人いるんだよね。」
「五人!?」
突然のカミングアウトに思わず叫んでしまった。
「お姉ちゃんの影響もあってかわいいものとか好きなんだけど、あんまりよく思われてなくて。今日の朝もさんざんからかわれた。」
どこか疲れたような顔をしていて、笑顔にも元気がないように見えた。
「でも、遊びまくってた交際関係もぜーんぶ解消したし。からかわれた分、拳でやり返したし。そのせいで今家の中めっちゃくちゃなんだ。」
白い歯を見せて安城殿が笑った。
「この天晴様は男の子にも女の子にもなれる究極の存在なんだって、胸張っていくよ。もう変な噂にびくびくしない。」
「……安城殿!」
やっぱり、格好良い。ずっと変わらない。何があっても、時がたっても、人格は変わらないらしい。
「ありがとう、霧雨ちゃん。なーんかスッキリしたわ。」
「私は何も…冨岡くんに言ってあげてください、安城殿。」
「ねぇ、その安城殿ってやめない?呼び捨てで良いから天晴って呼んでよ!」
「えっ、あの、呼び捨てはちょっと…。あ、天晴先輩で!!」
「えー?まぁ許してあげるわ。」
安城殿改め天晴先輩は綺麗にウインクを決めた。
私は頬を赤らめながらその隣を歩いた。