第27章 水飛沫
そんなこともあったりしたが、私の日々は変わらない。改めて思うと実弥とこんなに話さないのって初めてなんじゃないだろうか。
ある日、授業中にふと窓の外を見た。
『……霧雨ちゃん………』
安城殿は悪い人なのかもしれない。けど、本当はそれ以上に優しい人だった。
『…何も考えないで。何も思わないで。……私の死は他の人の死と変わらない。あなたのお父さんと同じ死よ。』
……………。
あぁ、それなら。
それならどうして。
『それなら、なぜあなたの死はこんなにも悲しいのですか』
私はあの時も笑っていた。
大量出血で肌が青白くなり、すっかり冷たくなった安城殿はもう動かない。答えない。教えてくれない。
人の死を見るなんて寝覚めが悪い。
実弥…。
あなたも、そうだった?
私の死に何かを感じた?
私は安城殿を救う術を知らなかった。血を流してもう立てもしないあの人を。
実弥だってそうだったはず。
私は安城殿を救えなかった。でも今は支えられる。安城殿にしてあげたいことができる。こんな平和な世の中なら。私は。
例えあの人がどんな人間でも。殺人鬼でも、詐欺師でも良い。それでも。
わかってくれるかな。
話したらわかってくれるのかな。
私はそんなことを考えながら授業中の窓の外を見る。
そんなところに答えはないのに、私はずっとそうしていた。相変わらず苦手な数学の授業は私の耳に入ってこなかった。