第27章 水飛沫
私は誰かわかっていた。
いつだって君はそう。君の気配は、接近するまで気づくことができない。そんな人は初めてだった。もし君が他の人と同じだったら。私は死ななかったでしょう。
「とー、みー、おー、かー、くんッ!!!」
「…ッ」
「な~にしてるのかなッ!?」
私はなるべく陽気に話しかけた。
安城殿は誰だかわからないはずだ。
「あなたも鬼殺隊?」
「っ、あなたも…というのは」
「私は元鳴柱の安城天晴。前世の記憶はばっちりあるわよ。」
「そうか。俺は元水柱の冨岡義勇だ。」
……随分とあっさりしている。
「で、立ち聞きしていたのはどうして?」
「そこに忘れ物をした。」
「「えっ」」
私達は同時に振り返った。屋上へ続く階段のすみに、よーく見れば…弁当箱の包みのようなものが置いてあった。
「「えっ」」
また私達はシンクロする。冨岡くんは躊躇うことなく歩き、それを手に取った。
「「えっ」」
ちょっと待てどういうことだ。
「と、冨岡、くん…もしかして、もしかしてさぁ…お昼ごはん、ここで食べてる?」
「?そうだが?」
安城殿が明らかに引いていた。
無論、私も。
「な、何で…!?」
「飯を食べるときに他人と会話するのは煩わしい。」
「………まあ、正論ね…?」
安城殿が変に納得した。
私は呆気に取られていたが。
「……そうだ、霧雨。」
「何?」
「…。いや、また今度。」
冨岡くんがはぐらかした。珍しいな、と思いつつもお弁当箱片手に去っていく彼をただ見送った。