第26章 一枚絵
吹奏楽部以外はまず使用することのない楽器庫と呼ばれる楽器が置いてある教室の前まで移動した。
実弥はため息をついて頭をがしがしとかいた。
「ったく、まさかとは思ったがあの安城だとは…馬鹿だろお前」
「へ!?な、何で!?」
「有名な話だ。この学園しきってんだよ。」
「仕切る…?」
「はぁ…。カタギじゃねえってことだ。」
……それって…。
「ヤンキーってこと…?」
「言っちまえばな。あの人風当たり最悪なんだ。」
「そんな…ッ!安城殿は…」
「それは前世だろ!!」
実弥が怒鳴る。私は思わずビクッと体を震わせた。
「アイツはお前の知ってる安城天晴じゃねえんだよ!俺だってそうだ!!」
「………!!」
私は唇をグッと噛み締めた。
じわじわと涙が込み上げてくる。
泣きたくない。泣いて逃げるような、そんなの。そんなか弱い女の子になりたくない。
「……そんなこと言われたくない…!!」
「あ?」
「私がどんな思いで先代の柱を見送ったか、どんな思いで死んだか……今の実弥はなーんにも知らないってことでしょッ!!」
実弥にこんなに怒ったのは初めてかもしれない。
いや…。
初めてじゃない。初めてじゃないけど、きっと実弥は知らないって言うんだろうな。
だって私が怒ったのは風柱の不死川くんで、私の家のとなりに住んでる実弥じゃない。
「あぁ知ったこっちゃないね!!悪いが俺はあんなヤツに近づくお前と関わりたくねえよ!!」
私はグッと拳を握りしめた。
「じゃあとっとと私から離れろよッ!!!」
最大級の圧をかけて怒鳴った。一瞬怯むも実弥は私の肩をグッと押した。
「……わかったよ」
すれ違い様にそれだけ言い残して実弥は去っていった。
私は怒りがおさまらなくて、その場にしゃがみこんだ。しばらくの間ずっとそうしていた。