第26章 一枚絵
「……安城天晴さん…ですか?」
「あら」
安城殿が私を見る。…すみません、全部こいつに喋ってるんです。
「えっと、この子は不死川実弥です…。その、すみません…。」
「いいのよ。言ったでしょ?私気にしないの。よろしくね、不死川くん。」
「………」
……あれ?実弥、何で答えないんだろう。
安城殿に向ける視線はどこか冷たく、実弥はまるで怒っているようだった。
「霧雨ちゃんに認知されているってことは…。ただの隊士じゃないわね?」
「……はい。」
こんな会話をしていても、私達の会話を気に止める者はいない。今は文化祭。それぞれがばか騒ぎしているからだ。
……やっぱり期限悪いのかな。何でそんなそっけない態度をとるんだろう。
「何だか私が気にくわないようね。」
安城殿が手をくんでその上に顎をのせる。
私はドキリとした。実弥はそれには動じず相変わらずだ。
「安城殿、そんなことはありませんよ。アマモリくんに置いていかれて嫌だっただけだよね。」
慌ててフォローするも、実弥は態度を変えなかった。
「安城さん……あまりコイツに近づかないでくれませんか。」
あろうことか、とんでもなく失礼なことを言い出した。
「へぇ…。言うじゃない。」
「さっきから胡散臭せえんだよ。……あんた、あんま良い噂は聞かねえぞォ…。」
「あらあら。」
私はいったい何の話かわからずに二人を交互に見比べた。
「どんな噂があるのかしら。気になるわ。」
「バカ言え。知ってんだろうが。」
「ふふ。」
やっぱりわからない。私がキョトンとしているうちに実弥が立ち上がった。
「行くぞ」
「え!?ちょ、ちょっと!だめだよ謝らないと…安城殿に失礼なことばっかり言って!!」
「行くんだよ!」
イラついたように言われ、次は安城殿に視線を投げた。
ただ優しく微笑むだけで何も言わなかった。私はコーヒー代を置いてそこから出た。
実弥はずんずん進んでいく。私は必死で追い掛けた。
「不死川くん、待ってよ。安城殿のこと知ってたの?何で怒ってるの?」
「……ちっ、逆に何で知らねえんだ。」
「えっ」
さも当然のように言われて驚いた。
実弥は周りの目を気にしているようでそこでは言わず、いったん中等部の校舎に移動した。