第26章 一枚絵
私はその次の日から文化祭期間が終わるまで学校に行かなかった。
皆に心配されたけれど、風邪を引いたと誤魔化した。
……吹奏楽部のステージ、今年は見ることができなかったな。
去年の実弥のソロを思い出す。
言い合いというか、あの喧嘩のあと一言も話していない。文化祭が終わってもそれは続いた。
家の前でばったり会っても、廊下ですれ違っても、部活で顔を会わせても。
私達はお互いを無視し合った。
一方で安城殿とは定期的に会って話すようになった。中等部と高等部の生徒が使える共有スペースの…私達の場合はもっぱら屋上に続く階段である。
立ち入り禁止の札を無視し、屋上の扉に続く階段で会って話していた。
今日もそうしていた。
「…ごめんなさい。そんなことになってしまって…。」
安城殿が髪をかきあげる。左耳が見えた。ピアスがこれでもかというほど開いている。数えたところ、六個。……校則で禁止なんだけどね。
「いえ、私がカッとなってしまったので…。」
「うん…でもね、私も悪いわ。周りからどう見られてるかなんてわかっているし。子供がいるとか、人を殺しているとか、既にバツ三とか噂されているのも。」
…それは私も知った。そういうことに詳しいカナエに聞いたのだ。
「……嘘だけどね。」
「安城殿…。」
「…霧雨ちゃん、あなたも……ありもしないことを言われてこんなに辛かったのね。私、今になって怖くなってきたわ。」
「いえ、私のは紛れもない事実でしたから。……安城殿、少し休まれてはどうですか。」
「平気よ…ありがとう……。あなた、本当に強いのね。」
安城殿に褒められてつい舞い上がってしまう。
いけない。深刻な事態なんだから。
「………霧雨ちゃん」
そんなことを考えていたら急に安城殿の声が低く、小さくなる。
「………わかっています」
私達は屋上の扉前から動いた。
感じる。
誰か、いる。