第26章 一枚絵
安城殿は私のヒーローだった。
いつでも誰でも他人の一歩先を行くような人だった。強かったし、私に色んなことを教えてくれた。
家で雑な扱いを受けていたとはいえ、一応華族でセレブ道まっしぐらだった私は生活に関することが何もできなかった。
ご飯の作り方、布団のひき方、お風呂の沸かし方、お茶の淹れ方、買い物の仕方。
『いいこと?柱は下の隊士と違う特別な存在。あなたは美しく自分を磨かなければならないの。毎日鏡を見なさい。自分の美しさを確かめるために、ね。』
覚えてる。一言一句違わず今も覚えているの。私はあなたの言う通りにしていました。
でも。あなたが死んでから、私、鏡を見なくなりました。
……あぁ、やばい泣きそう。
喫茶店をやっているクラスにお邪魔して二人でお茶していたら、前世のことを思い出してしまった。
「ねぇ、あなた彼氏作らないの?」
「ぶっ」
そんなセンチメンタルな私にかまわず安城殿はそんな話をふってきた。
おかげで私はあと少しでコーヒーをぶちまけるところだった。何とか耐え、喫茶店で騒ぐわけにもいかないので慌てて安城殿に声を潜めて否定した。
「何を言うのですか!そんなのいりません!」
「はぁ?何でよ。」
「私はまだ中学生ですよ…。」
私がそう言うと安城殿はため息をついた。
「あのねぇ、まだ中学生って馬鹿なの?“もう”よ“もう”!もう中学生なんだから!!」
「お笑い芸人ですか」
「お黙り」
ピシャリとそう言い放ち、安城殿はひそひそと語りだした。
「あんた、そんなんじゃ売れ残るわよ。ガードが固いって聞いていたけどその通りだわ。好きなオトコができてもまだ中学生だからって付き合わないつもり?」
「…付き合う?」
「……もしもーし、意味わかる?」
付き合う?え?好きなオトコ?
さ、さささささ____さねみ、くん__?
実弥と、付き合う?