第25章 苦手人
開いた口が塞がらない。
そんな感じだった。
「………」
「………」
私達は何かを悟り合い、黙って頷いた。
「おら書けたぞ」
「いっぺん死になさい」
最後にその人は宇随先輩を一発ひっぱたいてから去っていった。
私はその間にその人の気配を覚えた。
「かーっ、だりぃ」
「…書類はちゃんとした方がいいですよ。」
私はそう先輩に言った。そして、様子のおかしい伊黒くんに声をかけた。
「大丈夫?何か…苦しそうだけど」
「いや、俺は、別に」
ヒュ、と嫌な音が伊黒くんの喉がなった。
「伊黒くん…?だ、大丈夫!?」
「だい、じょ、」
ヒュー、ヒュー、と音が止まらない。さすがに宇随先輩も気づいた。
「おい!伊黒!?」
過呼吸。
症状を見て頭にその病名が浮かんだ。
「おい!珠世先生呼んでこいッ!!!」
「は、はい!!」
私は美術室を飛び出そうとした。けれど、伊黒くんが思いっきりスカートをつかんできたのでこけそうになった。
「……や、めて、くれ…」
「えっ!?えっ!?」
呼吸しやすくするためか珍しくマスクを外した。
「…すぐ、おさまるんだ、こうしたら」
ぎゅっと胸元をおさえていた。
すると本当におさまっていった。私はオロオロとしてその様子を見守っていた。
「……すみません、先輩」
「別にかまわんが…お前、どうしたんだよ。」
「……実は…」
伊黒くんは少しうつむき気味に理由を話し出した。