第24章 前世の記憶ー霞がかる煉獄ー
蹴り飛ばした下弦の参の気配がしない。
おかしい。気配が全くない。
「お、鬼狩り様!あと一体鬼がいます!」
「お願いいたします鬼狩り様!お助けください!」
村人が私の周りに集まる。私のそばにいれば安心かと思ったらしい。
「動かないでくださいッ!!!」
私は叫んだ。村人達は止まった。
ボロボロになった隊士は先ほどから膝をついたままだったが、血が止まったのか立ち上がった。
「あなた、鬼を見ていましたか?」
「……」
隊士は苦々しい顔をしていた。
私はそこで気づいた。
先ほど受けた鬼の攻撃によりできた頬の切り傷。血が止まっていない。そんなに深くないはずなのに。
「答えなさい。鬼はどこですか。」
「わかりません。先ほどもこうやって消え……それから、隊士達が死んでいきました。」
「鬼が消えてから死ぬまでの時間は?」
「……正確にはわかりませぬが…もうすぐです。」
「なるほど。」
私は目を閉じる。
深奥で極限まで意識を高める。
止まらない血、消えた鬼、ボロボロの隊士…。
思い出せ。村の入り口の死屍累々を。致命傷はどこでしたか?どのように死んでいましたか?なぜ目の前の隊士は無事なのですか?彼の血は止まったのになぜ私の血は止まらないのですか?
フシイイイイイイィィィィ、と口の端から息が漏れる。
刀を握る手がガタガタと震える。
怒りで。
「随分と遊んでくれましたね…」
目を開く。
頬の血は止まらない。
私は自分に刀を向けた。目の前の隊士が驚いている。
「引きずり出してあげますよ!!」
私は笑いながら自分の頬をかき切った。
顔から血飛沫が上がる。
その血飛沫の中に、私は確かに見つけた。
「そこのあなた!!」
「…!?」
隊士が驚く。
「斬るのです!!」
見えているはずです。鬼殺隊ならば。私の血飛沫の中にいる小さな鬼が。真っ赤に血で濡れた下弦の参が。
攻撃が急にあり得もしない場所から出現するのは先ほど斬った鬼の血鬼術。大勢の隊士を殺したのは、小さくなって人間の体内に潜り込む下弦の参の血鬼術。
隊士の血が止まったのは、この鬼が侵入していなかったから。私が出血し続けたのはこの鬼の侵入により体をいじられたからだろう。