第23章 面影
「皆さん、そろそろお昼ごはんを…」
瑠火さんの声がして私はハッとした。
四人ともばたんきゅーといった具合になっているのに、私だけぴんぴんしているのだから彼女は驚いたようだった。
まぁ四人がこうなるのもしょうがない。真夏に動き回るのはよくない。しかもここは道場。空調設備はなく、外からくる風が唯一のたよりだった。
…って、四人をのばしたの私なんですけどね。
「まぁ、やはり霧雨さんには歯が立ちませんでしたか」
「うむ!まことに情けない!」
煉獄くんが立ち上がる。
「よし、昼飯だ!皆食べていくといい!」
「え~いいの~!?やったあ!お腹すいてたの~!」
皆もご飯と聞いて次々と起き上がる。
……これで元気になれるのか。すごい。
思えば、前世では私と年が離れていた子達だ。精神が若いんだろう。羨ましい。
疲れきってるんだけど。しんどいし、ふらふらする。
「霧雨さんも……どうかされました?」
瑠火さんの言葉で皆がピタリと動きを止める。私はなんでもないですよって言うつもりだった。
けど。
「げふっ」
そんな汚い音をたてて倒れてしまった。
「霧雨ッ!!!!!」
実弥の声がする。
そしてそれをかき消すばかりのセミの声。
私は自分の体に何が起きたのかを何となく理解した。
喉の奥から嫌なものが込み上げる。
「きゃーッ!!!!泡!!泡吹いてるわ!!」
「千寿郎!杏寿郎!!水と氷とタオルを!あと父上を呼んできてください!!」
「は、はいっ!」
「わかりました!」
二人がバタバタと走っていくのがわかる。
「横にしなくては、泡がつまっては大変です。」
ぶくぶくぶくと泡を吹いて倒れている私。
……うぅ、気持ち悪い。
それを聞いた皆がものすごい勢いでぐるん!と私の体を回転させた。
「死ぬな!!霧雨!!!」
「だめよう、そんなの嫌ああ!!」
「霧雨!!!」
……大袈裟なんだよ、と言いたかったけれど言えなかった。
瑠火さんが必死に皆を止めているのがわかる。
私はそれを横目にまだ朦朧としながらも意識を保っていた。