第23章 面影
槇寿郎殿に運ばれた私は居間でしばらくぐったりしたのちに復活した。
そして、やっと昼ご飯にありつけた。皆待っていてくれたようで、一緒に食べた。
「ご迷惑をお掛けしました…」
「まぁ、あんなに暑いなか動けば熱中症にもなるだろう。配慮がなかったな。すまない。」
槇寿郎殿がそうめんをすすりながら言う。
「いえいえ、私も本気を出さないといけなくなってしまって…大人げない。手合わせならば手加減をしないといけない立場ですのに。」
私が言うと、皆むっとしたようだった。
「天下の霧雨さんよォ、あとちょっとで一本入ったからな俺はよォ」
「……ずいぶんと長いあとちょっとだね」
まだ復活したばかりで頭がボーッとしていたので配慮のある言葉選びができなかった。
食卓に嫌な空気が流れる。
「でも、ちょっと安心した」
「何がだよ」
「皆強くなってて」
私はそうめんをすすった。冷たくて美味しい。
「死んだ甲斐があったよ」
ついポロッと口に出してしまった。
いけない、これは内緒だった。誤魔化すようにまたかきこんだ。
「……正直、霧雨を越える者はいなかったな」
「関係ないよ」
気づけばボソッと呟いていた。
「最強なんて言われたって、所詮は死ぬ人間なんだから。強さは関係ないんだよ。大切なのは、所詮死ぬ人間をどれだけ命を懸けて守ることができるか…。」
そう。人は死ぬ。
「私はそう思うけどね。」
「……何か、説得力があるな…」
「さすがおば」
最後まで言わせない。宇随くんの足を思いっきり踏みつけた。ガタン、と急に体を揺らした彼に視線が集まったが誰もなにも言わなかった。
「まぁ、そんなに悲観しなくても。今はそんなの関係ないじゃん?ご飯が美味しかったらいいでしょ。」
「確かに!」
煉獄くんが豪快に笑いながらそうめんをすする。
前世じゃ食事は一人だった。継子がきてからはあの事食べたけれど。
でも今はたくさんの人と一緒に食べられる。
それが、本当に嬉しいんだ。