第23章 面影
前世と何一つ変わらない面持ちで彼の家族は居間に座っていた。
「おはようございます。皆さん、お変わりないようで。」
煉獄家の母、瑠火さんが挨拶をする。そのあと弟の千寿郎くん、そして父の槇寿郎殿が挨拶をした。
そして皆がわいわい話し始めるのを…。
私はただ眺めていた。
私はまだ部屋に入っていない。輪からもれてしまった体を装い廊下からチラチラ様子を見ていた。
だめだ、変な汗ばかり出て。
何も話せない。動けない。でも、後退りはできる。
このまま帰ってしまおうかと思った。
「何してんだ」
「わ」
しかし、いつの間にか入り口付近に戻ってきていた実弥にバシ、と背中を引き寄せられて中に入ることになってしまった。
(堂々としてろ)
(ッでも)
(楽しそうに笑え、得意だろ)
実弥とこそこそ話す。
けれど。
もう笑えない。前世のように笑うことができない。何で私はこんなにも弱いのだろうか。
「霧雨…」
槇寿郎殿が私をその目に捉えた。
私は慌ててペコペコと頭を下げた。
「お、おはようございますっ。」
それ以外の言葉が出てこない。
「あぁ、おはよう。」
槇寿郎殿の優しい声に、ハッとして顔をあげた。
……酒に溺れていたあの姿はもうなかった。日溜まりのような、太陽のような温かい微笑み。
…まるで…初めて会った、私を助けてくれたあの日のように。
「………」
「…?」
「ど、どうされたのですか?」
固まってしまった私にカナエと千寿郎くんが驚いていた。
「あ、いや、何でも。」
慌てて笑顔を作った。
…ちょっと笑えた。けど、きっと醜い歪な笑顔。
「……お二人は募る話もあるでしょう。話されてきてはどうですか?」
「……そうだな、そうしようか。」
私は何も言えなかった。けれど話は進み、二人で話すことになった。