第23章 面影
槇寿郎殿が柱であった時代を知っている。それはあのメンバーのなかで唯一私だけだった。
それを知っている瑠火さんが気をきかせてくれたのかもしれない。
父の件があって、私は男が苦手だった。
彼はそれをわかってか不自然なほど距離をとってくれたし、通された彼の部屋だというここの扉や窓は全て開けてある。
「……久しぶりだな」
「はい」
「…元気だったか」
「…そう、思います」
手の震えが止まらない。あと変な汗も。
どうしよう。どうしたらいいんだろう。
「…霧雨。君には…随分と酷いことをした………。」
「いえ、私が。……父を殺したから…。」
上ずった変な声しか出ない。
「私、普通じゃ、なかったですから。」
「っ…違う、そうじゃないんだ。」
「……。」
おずおずと顔を除く。
「あの時…俺は君に嫉妬していた……」
「嫉妬……?」
私はよくわからないままその言葉を繰り返した。
「俺は自分の才能のなさに打ちのめされていた。」
「………」
「君の才能を前に……八つ当たりのようなことをしてしまった。」
「……何を…」
何を、言っているんだ。
才能?
才能って、何?
「そんなの」
私はぎゅっと拳を握りしめた。
「そんなの、あったら、私は…」
私は。
私は、私は。
「…すまなかった」
「……槇寿郎殿…」
頭を下げる彼にかける言葉が見つからない。
「……謝らないでください……私は…強くはなかった……たったの二ヶ月で幼い継子に抜かれてしまった………」
無一郎くん。
彼は、ずっと。
ずっと私に勝てない。一本も取れないと言っていたけれど。
私は何度も心が折れそうになった。どうしてそんなに次々と新たな責め方が思い付くのか。どうしてそんなにはやく呼吸を覚えられるのか。
どうしてどうして。
どうしてたった二ヶ月で私の上にいるの。どうしてそんなにすぐ階級があがるの。どうして。どうして。
嫉妬。焦り。
なかったといえば嘘になる。
「…私は………あなたの思うような強さはありません…」
「…霧雨……」
「悲しいことを言わないで……どうか…」
どうか、私を、そんな目で見ないで。