第23章 面影
噂というのは余計なものをぶら下げ、ワッと広まっていく。
それを実感したのは、吹奏楽部のコンクールも終わってやっとゆっくりできるなあと思っていたときだった。
「ッ!!煉獄くんと結婚の約束したって本当なの~!?」
突然家を訪ねてきたカナエを出迎えるため、玄関のドアを開けるや否やそう叫んだのだ。
「カナエー!!やめてやめてっ!!ご近所に聞こえるでしょ!?」
「答えて!こーたーえーてー!!」
「おじいちゃんとおばあちゃんもいるんだけど!?」
二人はリビングから玄関を除いていた。
何事かと目を丸くしている。
「と、とりあえず私の部屋行こうっ!二人とも、この子私の友達のカナエ!あとさっきのは気にしないでね!!」
二人の返事も聞かずぐんぐんと彼女を引っ張り部屋に連れ込む。ぴしゃりと扉を閉め、カナエを座らせた。
「カナエ、どこからそんなに聞き付けたかわかんないけど全くの事実無根。オッケー?」
「…よかったあ~!」
「よかったーじゃないよ!!そんなの広めたりしてないよね!?」
「してないよ~。華道部の子が言ってたの!」
「それだけで大問題なんだけど!?」
流行りに敏感なカナエは既に煉獄くんの存在を知っていたそうで、話しかけにも行ったらしい。
「ビックリしたわ~。でもまさかそんな噂が出るなんてね。」
「私が一番ビックリしたよ!カナエ、華道部で否定しといてねっ!」
私は何度も何度も釘を刺した。
これで少しは広まるのを抑えられたかと思いたい…。
「そうよね、不死川くん一筋だもんね~。」
「あのねぇ…。」
私は頭を抱えた。
カナエはただ私をからかいたいだけなんじゃないだろうか。
……そんな気がしてたまらない。