第19章 別れ
『あっつい!!!』
四方八方が炎だ。
よかった、上手く入れ替われたみたい。
あのガラス…よく割れたなぁ。
ガラスが再生しちゃったから向こう側に行けないし。しかもあの後に何回やったってもうガラス割れなくなっちゃったし。
炎が迫ってきていたから、逃げているうちに随分奥まで着ちゃった。
それに、目印もないしもう戻りようがないっていうね!
あぁもう、どうしたらいいのー!!!
『あっち!待って、これ私どうなるの!?』
炎が私の行く手を阻む。
ダメだ、もう本当に八方塞がり!!
『……諦めない…絶対消えてなんかやらない。…私は私を信じてるんだから!!』
必死に自分を奮い立たせて炎から逃げた。
何が嫌って熱いことなんだよな。多分、気を抜いた瞬間焼かれて黒焦げになってしまう。
入れ替わったけど、私がもう一回元に戻れるのかっていう保証はない。けど、過去の私が消えるのも嫌だし私が消えるのも勘弁願いたい。
『う………』
だめだ、ふらふらしてきた。意識が朦朧とする。
『………』
ガクン、と膝が折れる。
手に力が入らない。
……熱い。
?…何か、聞こえるな…?
私はついに倒れた。しかし、私の耳は確かに…その声を拾っていた。
赤ちゃんの…泣き声……?
『師範』
……?
『師範』
オギャア、オギャア、という泣き声に混じって、聞き覚えのない声がした。
サラ、と黒い髪が私の頬に垂れてきた。
一人の男の子が私を覗き込んでいた。朦朧とした意識のなか、その姿ははっきりと見えた。その子が、泣き叫ぶ赤ちゃんを抱いていた。
『師範』
その男の子がにっこりと微笑んだ。
『赤ちゃん、僕がずっと面倒見てたんですよ。』
男の子が私の頬に触れる。信じられないほど冷たかった。でも、今はとても気持ちよくて。
『僕じゃ泣き止んでくれないんです。』
私は起き上がった。
周りの景色が変わった。赤ちゃんの姿も見えなくなった。
炎が消え、あの懐かしい…前世に私“たち”が住んでいた屋敷が見えた。
『師範』
『………ッ!!』
思わず、私は涙した。
……そうか。
そうか、君は、待っててくれたんだ。
私が死んでも、鬼になっても。
私の赤ちゃんのお墓を守ってくれた。屋敷を守ってくれた。柱として役目を果たしてくれた。