第19章 別れ
私は目を覚ました。
目を…覚ました?
あり得ない、あり得ない。そんなことはあり得ないっ!!!!!
畳の上で私は寝ていた。手には将棋の駒が握られていた。残りの駒があたりにバラバラに散らばっていた。
握られた飛車の駒は、ほんのり暖かい。
生の温度だ。
…鬼になってから感じなかったもの。
それに、戻ることのなかった視覚と聴覚が元に戻っている。…これは、いったい…!?
……待って。さっきのあの光景。もう一人の私の行動。
まさか、入れ替わったというのですか?
そんなことしたら、あなたが消えるのですよ……。
それより、ここはどこだ。
私は慌てて外に出た。
玄関に見慣れない履き物があったが…恐らく私のものでしょう。履いたら大きさが丁度でした。
そこは、見慣れない空間。
気配を探ると、何だかたくさんの人間が集中しているのがわかった。
その中に、見知った気配がちらほら。
「あれ?キリキリちゃんやん。」
カラカラカラ、と懐かしい音がする。
懐かしい気配がする。
「なぁ見てや!先輩がこんなんよこしてきたんよ?俺子供やないのにー!!」
…?
風車…?
カラカラカラ、と彼が振り回す度にまわっている。
「メッセージ書いてあるんよ。キリキリちゃんの分ももらってきたで!…つっても、高等部の先輩との思い出なんてほとんどないよなぁ。キリキリちゃんも一回しか会ってへんのやろ?俺は会ったこともないで~。」
私に差し出された風車を手に取る。
カラカラ、と音を立てる。
青地の着流しに、白の帯にさされた風車。
話してくれた。旅芸人として働いていた母が風車を買ってくれて、それ以来風車が好きになったことを。
ひょっとこのお面で見えなかったその顔。
「……アマモリ、くん?」
「へ?どうしたん?改まって。」
私は驚いて、風車を落としてしまった。