第16章 餓鬼
今度こそ寝ないようにと今日はしっかり寝た。
午前中は余裕で切り抜け、次は問題の午後だ。しかしその前にお昼ごはん。
トイレに行った後にカナエにばったり遭遇した。
「!ねえねえ、見せたいものがあるの~!」
「な、…カナエ、引っ張らないで。」
そして無理に連行された。いったいなにかと思えば華道部の部室だった。
「クリスマスにお花を生けようってなったんだけど、その時に着物を着るの。」
「……綺麗だね。」
華道部の部室は将棋部同様和室になっていて、そこに着物が置かれていた。部員分あるのだろうか。圧巻だな。
「でしょ!?レンタルなんだけどね。私はこれ着るの!」
カナエが手に取ったのは桃色地の椿柄。
「冬らしくていいねぇ。」
「ふふふ、楽しみ~。」
嬉しそうに笑うカナエはかわいい。
思えば、着物って着たことないな。前世でも洋服着てたからな。……今と全然違うやつだけど。
「?」
カナエが名前を呼ぶ。
私の頭の中には、何かが流れ込んでいた。
昨日の、あのお風呂の中で。
過去の私は、私にあるものを渡してきた。それが何だったのか、よくわかっていなかったが。
今、はっきりとわかる。
「…カナエ」
「何?」
心配そうに私のもとに歩み寄ってくる。
「……カナエは、前世のこと全部覚えてる?」
「?うん、そうだけど…急にどうしたの?あまりその話しないじゃない。」
「うん、ごめん…。」
私は今、はっきりとわかったそれを自らの中に秘めた。
言えない。
こんなこと、言えない。