第16章 餓鬼
「呼吸での止血は?」
「やっている」
…血は止まっていない。まずい。
私は持っていた手拭いで傷口をおさえた。
「傷口を焼く。」
「……」
こういうときのためにマッチやら何やらは持っていた。
そこらへんに落ちている木の葉や枝をかき集めた。はやくしなくては。
「あんたなら、止められるのか」
「喋らない方がいい」
マッチをすっていると弱々しい声で聞かれた。火がついて木の葉が燃えていく。
「教えてくれ、あんたならどうやって止める」
彼を火の近くまで運ぼうと肩を抱く。
「破れた血管を特定して、そこに意識を集中させて止める。血の流れを読んで、おかしいところを探す。最終的にはそのおかしいところを繋げて血管を修復させる。」
「……」
ガクン、とその人は力を手放した。意識がない。重い。命の重み。
私は、そこで気づいた。
その人の傷口の血が止まってた。
…まさか、あれだけの助言で物にしたと?
「すごいね、君の飼い主は」
蛇が彼の首に巻き付いたまま舌をチロチロと出す。
その後、火を消し彼を担いだ。
「行くか」
私は歩いた。
藤の家までの道中、時折死んでいるのではないかと思った。
だが、規則正しい寝息が聞こえた。
私は藤の家の前に彼を寝かせた。さすがに、入れないから。
「何をしている」
「…兪史郎さん」
いつの間にか背後に彼がいた。…あぁ、追いかけてきてくれたのか。
「珠世様に心配をかけるな」
「それは申し訳ない」
「はやく行くぞ。朝になる。」
私は兪史郎さんについていった。
「…死んだのは私だけ…か」
「何だ?」
「いいや。」
藤の家の前で眠る彼を一度だけ振り返り、私は前を向いた。