第16章 餓鬼
次の日から私は普通に教室へ顔を出した。
皆心配したと口々に言ってくれた。風邪をこじらせて入院したことになっていたらしい。復帰しやすかった。
カナエなんて隣のクラスなのにわざわざ私の所にやってきた。冨岡くんは目が合えばニヤニヤしてて、実弥は相変わらず喋らなかった。
ただ、伊黒くんが珍しくたくさん話してくれた。
「宇随先輩がお通夜みたいに大人しくてな、気持ち悪いんだ。」
「……あー、そう。どうしたんだろうね。」
「今日も来ないのかって霧雨を心配してたぞ。退部するって思われたんじゃないのか。俺は入院してるんだって何回も言った。言ったからな。」
「そっか。何かごめんね。今美術部は何してるの?」
「絵を描くだけだ。」
「…そう。」
伊黒くんとの会話は落ち着く。声が良いんだよなぁこの子。
話す内容はちょっとネチネチしてるけど。
「なぁ、霧雨。やっぱりどこかで会ってないか、俺達。」
「…この学園に来る前?」
「何だか、そんな気がするんだ。大分前に…。」
伊黒くんに言われて、ちょっと気になることができた。
けれど、それは私の胸に秘めておくことにする。私だって覚えていないのだから。
前世で、会っていたかもしれない彼を。