第16章 餓鬼
「……帰るか」
しかし、下校時間になると冨岡くんはそう切り出した。
「そうだね」
私もそう続いた。
「…なぁ、霧雨は何か好きなものとかあるのか?」
「え?」
「俺は将棋が好きだ。お前は?」
好きなもの?
部活も好きだけど…。実はそんなに夢中になっていない。好きではなくて、多分普通。全部楽しいんだけど。
「…何だろう」
「前世は?」
「酒」
間髪入れずに答えると冨岡くんは呆れていた。
「ゲームとか、漫画とかは?」
「…持ってない。やったことも読んだこともない。」
「……何か見つかるといいな。」
冨岡くんが、優しい微笑みを浮かべる。
ていうか…イケメン。本当にイケメンだなこの子。
「そうだね。私の好きなものか。早く大人になってお酒飲みたい。」
「…アル中予備軍だな。」
「……もう、そうなってもいいや。」
私達は部室から出た。
部室の鍵を閉め、職員室に返しに行く。
次は昇降口へ。
「……そういえば、霧雨は不死川のことが好きなのか?」
「え」
「そうか。」
冨岡くんが頷く。
いや。
待てや。
「そうかって何!?てか急に何!?」
「反応を見ればわかる。」
むふふと彼が笑う。
「好きなものが見つかって良かったな」
「ふ…ふざけんなあ~!!!!!!」
私は冨岡くんに怒鳴った。彼はニヤニヤして逃げ回るばかりで私の話なんて聞いちゃいなかった。
「いい!?冨岡くん!!誰かに言ったらひどいんだから!!」
「あぁ、約束しよう」
「笑顔がうさんくさい!!」
「心外だ!」
私たちはぎゃあぎゃあ言い合いながら帰宅した。
帰る頃にはおばあちゃん達がいて、私はホッと胸を撫で下ろしたのだった。