第16章 餓鬼
「聞きたいことがあるの。」
私はしっかりと彼の目を見た。
「……私が鬼になっていたことは知っていたのよね?」
「………あぁ。誤魔化し方が下手だった。あなたからはずっと酒の匂いがしていた。…何かを隠すように。」
「……そこまでわかっていたならなぜ」
晩年、私はずっと酒を飲んでいた。飲んでも飲んでも酔わなかったのはそのせいもある。
「私を生かしたの?」
「………」
「頚を斬らなかったのは、なぜですか」
私はそれがずっと気になっていた。
ずっと聞きたかった。
なぜ、なぜです、冨岡くん。
そう思いながら私は君が走り去る気配を追っていました。
「あなたが鬼になったということに疑っていた。……本当に鬼ならば再生するだろうと思った。だが、記憶に残っている限りは再生していなかった。」
「…まだ体が鬼に慣れていなかったから。」
「…そうか。じゃあ、あれは幻ではなかったのか?」
冨岡くんが尋ねてくる。
「何のこと?」
「無限城だ。俺はそこであなたに…」
「ム、ゲン…ジョ……ごめん、もう一回言って?」
私が聞き返すと、彼はハッとしたような顔になった。
「いや…俺の勘違いだ。」
「そう…?」
「……俺も聞いていいか。」
冨岡くんの言葉に納得できずにいると、今度は彼が仕掛けてきた。
「なぜ鬼になった?」
言葉数の少ない彼らしく。
真っ直ぐな質問だった。
「……それは…」
そう。
そこだ。
この一週間、それも考えた。
「覚えていないんです。」
「……そうか。」
「…冨岡くんは、前世の記憶が全部あるの?」
「ある。」
「……」
私はそれを聞いて、妬ましく思ってしまった。
「……辛い記憶はない方がいい…」
「違うの。辛い記憶の中の、楽しくて幸せな気持ちを…思い出したいの。」
冨岡くんはしばらく黙っていた。けれど、私の側を離れることもなく、二人で部室でボーッとしていた。