第16章 餓鬼
今日も一日保健室にいた。
けれど、放課後は違う。
「…先生、授業は出ていないのに……部活に行ってみたいと言うのは、ダメでしょうか…」
昨日のアプリのやり取りで彼から言われたことだ。
私はだめなら引き下がるつもりだった。でも、珠世先生は。
「いいえ、霧雨さんが望むなら。……私が部室までついていきましょうか?」
「……いいんですか…?」
「はい。」
確かに、一人で歩くより先生と歩いた方が体裁は良いだろう。
「どこまで行きましょうか。」
「あ、将棋部まで。」
「わかりました。」
先生に続いて保健室を出る。
久しぶりの廊下。久しぶりにすれ違う生徒。
案外普通。
これなら私、教室に戻っても大丈夫かな。
「ここでよろしいですか?」
「はい。」
「では、また来てもいいですし、来なくてもいいですし。ゆっくり頑張ってくださいね。」
私は頷いた。先生は微笑んで去っていく。それを見送ってから部室の扉を開けた。
中では一人で本を片手に詰め将棋をする冨岡くん。
あとの他の人たちはいない。
今日は活動日だが自主練日なのだ。基本人は来ない。
「来たか」
「来たよ」
私達はむふふ、と笑い合った。
「思い出したのか」
「話し合いの時に随分と鎌かけてくれたおかげね。過去の記憶を遡って、どう考えても君だった。気配を察知できないなら疑われるのは柱だもの。声も気配も…冨岡くんのものだった。」
「そうか」
彼は詰め将棋の本を閉じて私に向き合った。
「謝らなくていいよ。冨岡くんのやったことは正しい。……遅かれ早かれそうなるとわかっていた。お館様は気づいていらっしゃったのね。」
「……お前を殺せるのは、俺しかいないと。 」
「……」
悲鳴嶼くんは…あんな関係になってしまったら、そうでしょうね。お館様はお優しいから、お情けをくださった。