第6章 美しい悲劇
涙が止まらない私の手をぎゅっと握りながら清光が聞いた。
「…まぁ。単純に考えれば、そうなるけど…」
「主さ、今日こっちに泊まれるんだって」
「そうか。それはよかったね」
「でね、俺泊まれる理由とか堀川から聞いたんだけど、一晩向こうに帰らなくても平気だからなんだって。だったらさ、もし仮に丸一日分主の時間があるとしたら、1ヶ月半とか居れちゃうのかなって」
思ったんだけど、と清光は言ったが、
「加州さん、半日に一度、だよ?それを続けてしまうと主の身体がもたない」
「そっか。やっぱ主の身体がツラくなっちゃうかな?でも、主が許す限り実験してもいい?」
「実験なんて言葉で主を苦しめないでくれ。君がそうしたいからそう、じゃないと主の心まで壊れてしまうよ」
「そう…だよね。ん、判った」
清光はおとなしく引き下がった。
「さぁ今夜はせっかく主と夕食が摂れるんだ。そろそろ広間に行こうよ」
「だね」
石切丸に促されて清光も頷いた。
清光と手を繋いだまま、
「ねぇ、着替えてもいい?」
聞くと、
「うん、いいよ」
審神者部屋へと寄ってくれる。
私的にはさっき風呂に入ったばかりなのだ。ならばいっそパジャマに着替えてしまったほうが楽。
以前着てきたのとは違うタイプのパジャマを鞄から取り出すと、清光は興味深そうに見てきた。
「主は浴衣とかは着ないの?」
「着ないってか、着付けられなくて…」
「浴衣はそんな難しくないよ?あのね、俺主にあげようと思って浴衣買ったんだ。着てみてくれない?」
清光が言う。
「私に?」
「そう。俺初期刀でレベル高いしそれなりの給金貰ってるから、何か主にあげたいなって」
ここの給与システムは、私が管理しているわけじゃない。私がまとめた書類を審査され、そこから私と男士たちに振り分けられるシステムになっている。
だから必然的にレベルの高い男士は高給取りになりがちなのだ。
その差を小さくするために日替わりで近侍がつき、隊を組むのを監視してくれている、と言っても過言ではない。
「待ってて。取ってくる」
そう言って清光は部屋から出ていった。
なんだか男のひとからプレゼントを貰うなんてことも最近なかったから、嬉しくてにやけてしまいそうになる。
押さえながらパジャマを鞄にしまい、清光が戻ってくるのを待った。