第6章 美しい悲劇
「神との交わりが君をこちらに導いてるんだ」
そこまで聞いて、石切丸が止めておいたほうがいいと言った意味が判った気がした。
「私たちが望めば君はこちらから帰れなくなる」
石切丸の言葉に背筋が凍った。
「それは…無理」
だって私には子どもが、まだ将来を見届けたい娘がいる。
「そう。だから君の無意識が抵抗しているんだ。それが頭痛となって現れる」
息を飲んだ。
「もし、俺が主を帰したくないと強く願ったら?」
清光が聞いた。
「主は相当の頭痛と、悲しみで打ちひしがれるだろうね」
「…それは望まないよね」
清光がぼそりと言う。
「それでも私たちの主を想う気持ちが強いほどそれが顕著に現れてしまう」
「私は、まだここにはずっと居られません。だけど子どもたちが成人したら好きにしてください」
「その言葉は神との契約になってしまうけれどいいのかい?」
「…構いません。私の望みは子どもが無事一人立ちするまでです。そこまでだって叶わない人もいるのに…」
それ以上を望むなんて贅沢過ぎる。
「判った。ならば私たちもあとわずか10年程度、君の思いが果たされるまでは待つとしようか」
その石切丸の言葉に清光も大きく頷いてくれた。
「すまないね。判ってはいたのに私たちの方がそれを抑えられないだなんて。小狐丸さんもきっとそうだろう」
「いえ、大丈夫です」
口ではそういいつつも、とんでもない恐怖で涙が出そうだった。
強がるのは簡単だ。だけど、意思に反して見る間に涙は溜まっていく。
そして、私の目からは溜まった涙が静かに落ちた。
「怖いかい?人間は、死を極端に恐れるものだけれど」
「怖い、です。だけどそうしたいし、それでいいって思う自分もいるんです」
震える声で言うと、清光が私の手を強く握りしめた。
「ごめんね、全部俺のせいだ」
「違うよ。清光は何も悪くない」
「そうだね。加州さんじゃなくても遅かれ早かれ誰かとはそうなっていただろうしね」
石切丸の言葉が重くのし掛かる。
審神者になった時点から狂い始めた私の時間。
それでも受け入れたのは自分。きっとどこかで気付いていたんだと思う。
「ところでねぇ石切丸」
「なんだい?加州さん」
「もしもだよ、主を半日に一度抱くじゃん?そしたらその分こっちにいる時間って加算されるの?」